研究概要 |
卵巣癌のうち特に明細胞癌は他の組織型の卵巣癌には著効を示すcisplatin、paclitaxelなどの制癌剤に対して著しい抵抗性を示す。卵巣明細胞癌と形態学的に類似した腎臓明細胞癌の発生には癌抑制遺伝子であるvon Hippel-lindau(VHL)遺伝子の異常が深く関与していることが報告されている。VHL蛋白は酸素存在下ではユビキチンリガーゼとして機能し、転写因子であるHIF(hypoxia inducible factor)の分解に関わっている。HIFにはHIF-1αとHIF-2αのサブニットが存在するが、現在のところ、HIF-1αとHIF-2αの分子生物学的機能の差異は明らかではなく、さらにその発現制御機構も不明である。最近、HIF2αはlnt6/elF3e/p48によって調節されていることが報告されたことから、本研究では卵巣癌におけるInt6,VHLおよびHIF-αサブニット発現の意義と機能を解明することを目的とする。患者の同意を得て採取した上皮性卵巣腫瘍についてHIF-1α、HIF-2αおよびlnt6に対する抗体を用いて免疫染色を施行した。その結果、Int6は細胞質に染色を認めた。HIF-2α発現は良性(PS;0.3)および境界悪性腫瘍(PS;14.1)に比べ、癌(PS;99.5)で発現が増強した(p<0.0001)。さらに、卵巣癌においてHIF-2α発現は組織分化度、病期と相関して増強した(p=0.034,p=0.018)。HIF-2αとInt6発現との間には統計学的相関関係は認めなかったが、卵巣癌の浸潤部ではHIF-2α発現陽性部位はlnt6発現陰性であった。患者生存期間の比較では、HIF-2α発現陽性およびlnt6陰性症例はHIF-2α発現陽性でInt6陽性の症例と比較して有意に予後不良であった(p=0.003)。Int6発現の有無によりHIF-2α発現陽性症例の中でも予後が異なることから、Int6の発現低下および、HIF-2発現亢進が卵巣癌の悪性度に関与している可能性が示唆された。
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