子宮頸癌培養細胞において、宿主染色体に組み込まれたHPV E6遺伝子の産物であるE6蛋白が、癌抑制遺伝子産物であるp53蛋白をユビキチン化分解することにより、その発現が著しく抑制されていること、またp53蛋白により通常はその転写が強力に抑制されているIGF-I受容体蛋白の発現が、p53蛋白による転写抑制から脱却することにより、反対に過剰発現していることを実証した。その事より、子宮頸部重層扁平上皮内におけるE6蛋白の発現局在と、IGF-I受容体蛋白の発現局在が一致しているのではとの仮説をたて、この事象を応用することにより、子宮頸部上皮内のHPV感染様式を簡便に判別出来ないかと考えた。子宮頸部上皮の基底細胞にHPV感染が起こると、軽度から中等度の異型上皮では、HPVの癌源蛋白であるE6やE7蛋白は、宿主の蛋白合成機能を利用して上皮の分化に伴って中層から表層上皮において発現する。一方、HPVのE6/E7遺伝子が宿主染色体に組み込まれた高度異型上皮以上の病変では、E6、E7蛋白は上皮内全層で強く発現される。しかしながらE6蛋白は免疫組織染色ではなかなか同定が困難なため、前述の仮説に基づき、IGF-I受容体の子宮頸部上皮内の発現局在、すなわちE6蛋白の発現の局在が、HPVの存在様式を簡便に判別できるのではと考えた。今回は子宮頸部円錐切除による摘出物の上皮内におけるIGF-I受容体の過剰発現局在を検討したところ、仮説のように、軽度の異型上皮ではその発現は中層上庫以上で認められ、高度の異型上皮や上皮内癌では全層に認められることが判明した。
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