【目的】SCC抗原と同じセルピンに属するマスピンは、乳癌の腫瘍抑制因子として注目されているが、その機能に影響を及ぼす分子多様性の存在に関する報告はない。今回、酸化ストレス条件下におけるマスピンの分子種について解析を試みた。【方法】マスピンを高発現している乳腺上皮細胞株MCF-10A細胞をサブコンフルエントまで培養し、H202処理後、細胞を回収し、遠心後の上清を試料に用いた。マスピン蛋白をWestern blot法にて検出した。また、1次元目に非還元条件下でSDS-PAGEを施行後、ゲルを切り出し、2次元目に還元条件下でSDS-PAGEを行うNon-reducing/Reducing 2-D SDS-PAGEによる解析を加えた。さらにマスピンとその標的分子の一つであるGlutathione S-transferase(GST)との反応性を解析するため、GSH-pull down assayを施行した。【成績】1)マスピンは、SDS-PAGEでインタクトとその分解産物からなる2本のバンドとして認められた。一方、H202刺激条件下では新たなマスピンの分子種が認められた。2)この分子種は、Non-reducing/Reducing 2-D SDS-PAGEでインタクトのマスピンと同じ移動度を示し、分子内ジスルフィド結合により生じたものと考えられた。3)GSH-pull down assayではGSTと分子内ジスルフィド結合を形成したマスピンとの反応は認めなかった。【結論】酸化ストレス条件下では、分子内ジスルフィド結合を形成したマスピン分子種が増加し、マスピンの機能発現に何らかの役割を有する可能性が示唆された。子宮頸癌におけるマスピン蛋白の発現動態を検討する上で興味深い知見であると考えられた。
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