【目的】扁平上皮癌関連蛋白SCC抗原と同じセルピンに属するマスピンは、乳癌の腫瘍抑制因子として発見されたが、その分子多様性の存在やその機能に及ぼす意義に関する報告はなく、酸化ストレス条件下におけるマスピンの分子腫について解析した。また、子宮頸癌におけるマスピンの腫瘍抑制因子としての意義を明らかとするために、子宮頸癌で腫瘍形成促進的に働くSCC抗原を含めて2種類のセルピン分子の発現動態について解析を行った。【方法】マスピンを高発現している乳腺上皮細胞株MCF-10A細胞をサブコンフルエントまで培養し、H2O2処理後、細胞を回収し、遠心後の上清を試料とした。マスピン蛋白は特異抗体を用いたWestern blot法にて検出した。また、一次元目に非還元条件下にSDS-PAGEを施行後、ゲルを切り出し、2次元目に還元条件下でSDS-PADEを行うNon-reducing/Reducing 2-D SDS-PAGEを確立しこれを用いた。正常子宮頸部扁平上皮組織4例、子宮頸癌Ib-IIb期の癌組織16例におけるマスピン蛋白の発現をWestern blot法にて解析した。【成績】1)Non-reducing/reducing 2-D SDS-PAGEを用いて解析した結果、マスピンには、酸化ストレス下では、分子内ジスルフィド結合を形成した新たな分子腫が認められた。この分子内ジスルフィドは、GSH-pull down assay法でマスピンの標的蛋白であるGSTとの反応性を検討した結果、細胞内GSTとの反応性が低下ないしは消失していた。2)正常子宮頸部組織では4例ともマスピン蛋白は高発現していたが、子宮頸部扁平上皮癌10例中5例、腺癌6例中4例でマスピン蛋白の発現低下が認められた。興味深いことに、子宮頸癌の予後因子である骨盤リンパ節転移に関して扁平上皮癌でマスピン蛋白発現低下を認めたのは、骨盤リンパ節転移陰性例6例中1例であったのに対し、骨盤リンパ節転移を認めた4症例すべてがマスピン蛋白の発現低下を認めた。【結論】酸化ストレス条件下では、分子内ジスルフィド結合を形成したマスピン分子腫が増加し、マスピンの機能発現に何らかの影響を及ぼす可能性が明らかとなった。また、子宮頸部扁平上皮癌では原発巣でのマスピン蛋白発現低下が子宮頸癌の進展に重要な分子機構のひとつである可能性が示唆された。
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