【目的】子宮頸癌において腫瘍関連セルピンであるSCC抗原には分子多様性が存在し正常とがん組織ではその分子種の発現に差異を認めることを明らかとしてきた。今回、同じセルピンに属するがSCC抗原とは相反する生物学的機能を有するマスピンの分子多様性の存在やその機能に及ぼす意義に関して解析した。また、子宮頸癌におけるマスピン蛋白の発現動態について解析を行った。【方法】1)マスピンを高発現している乳腺上皮細胞株MCF-10A細胞に酸化ストレス条件を加えマスピンの分子種の発現とその標的分子との反応性の変化について種々の電気泳動法を用いて解析した。2)子宮頸癌におけるマスピンの発現動態についてWestern blot法と免疫組織化学染色法により検討した。【成績】1)酸化ストレス条件下では、腫瘍抑制性セルピンであるマスピンには、分子内ジスルフィド結合を形成した新たな分子種が明らかに増加した。この分子内ジスルフィドを形成した酸化型マスピンは、GSH-pull down assay法でマスピンの標的蛋白の一つであるGSTとの相互作用を検討した結果、細胞内GSTとの反応性が低下ないしは消失していた。しかしながら、酸化ストレス処理した細胞溶解液とリコンビナント蛋白を利用したbinding assayで検討した結果、細胞内蛋白のHSP70やHSP90、あるいは、細胞表面に存在するbeta1-integrin、pro-uPA・uPAR複合体、あるいは、核内蛋白のHDAC1との親和性変化には分子内ジスルフィド結合に伴う差異を認めなかった。2)子宮頸癌原発巣では、骨盤内リンパ節転移をきたしている症例で、SCC抗原の発現動態とは異なり、マスピンの発現が低下している傾向を認めた。【結論】酸化ストレス条件下では、分子内ジスルフィド結合を形成したマスピン分子種が増加し、マスピンの機能発現に何らかの影響を及ぼすことが示唆された。子宮頸癌の進展機構には原発巣での腫瘍促進的セルピンであるSCC抗原の異常発現に加えて、腫瘍抑制セルピンであるマスピン蛋白の発現低下が関与している可能性が考えられた。
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