前年度の研究成果として、癌細胞株にsiRNAを導入してHNF1-betaをノックダウンした結果、組織修復、抗アポトーシス、ストレス反応に関連する遺伝子が変動した。特に、卵巣明細胞腺癌株ではその傾向が顕著であった。卵巣明細胞腺癌は既存の抗がん剤に抵抗性があり、新たな治療法の開発が望まれている。そこで、今年度はHNF1-betaをノックダウンした卵巣明細胞腺癌細胞株を使用して、卵巣明細胞腺癌におけるHNF1-betaの生物学的な意義を検討した。その結果、ノックダウンした細胞株では、アノイキス抵抗性、細胞浸潤能および抗アポトーシスのが低下した。また、薬剤抵抗性について検討したところ、ノックダウンした細胞株では抗がん剤であるCPT-11に対する感受性が増強した。さらに抗がん剤感受性とHNF-1betaの関係を調べるため、HNF1-betaノックダウン群と非ノックダウン群で細胞周期の変化を検討した。その結果、HNF1-beta非ノックダウン群ではノックダウン群に比べ、G2期作動薬であるbleomycinの添加によりG2/M arrestの持続を認め、S期作動薬であるsn38の添加によりG1/S arrestの持続を認めた。これらの細胞では、チェックポイント機構の活性化に関与するタンパクのうちchk1のリン酸化が持続していた。よって、HNF-1betaがchk1のリン酸化を持続させることにより癌細胞の持続的なチェックポイント活性化を引き起こし、ひいては卵巣明細胞腺癌の抗癌剤抵抗性の要因の一つとなると考えられた。癌細胞の多くはDNA修復をG2/Mチェックポイントに依存しているとされ、G2/Mチェックポイントに関与するchk1は卵巣明細胞腺癌に対する新規治療薬のターゲットとなる可能性があると考えられた。
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