CA125は卵巣がんマーカーとして広く使用されているが、進行癌においては約80%の患者で高値を示すものの、I期癌では50-60%の患者でのみ陽性を示すにとどまる。日本人卵巣癌に特有なプロテオミックパターンを特定し従来の腫瘍マーカーより特異度、感度ともにすぐれた精度の高い血清診断を確立することを目的とした。米国Correlogic Systems Inc.社は血清タンパクのプロテオミクス解析(特殊なアルゴリズムに基づく多変量解析)により卵巣癌診断用のデータベースを構築した。日本人卵巣癌患者の血清サンプルをブラインドで米国卵巣癌診断用データベースに照合し、米国人の場合と同程度の判定精度が得られるかを比較検証した。米国人検体のみの診断モデルは卵巣癌患者血清120例および良性腫瘍を含むコントロール120例、計240例により作製された。当科にて卵巣腫瘍の診断で手術が施行された64例の日本人検体を対象とした。術前に患者の同意を得た上で血清を採取し、質量分析器およびイオン化装置にて解析した。日本人検体のデータを加えた新しい診断モデルの作製にはCorrelogic社のソフトウェアであるProteome Questを使用した。米国人検体のみの診断モデルを修正することなく用いて日本人検体を診断した場合、良好な判定精度は得られなかったが、日本人検体のデータにより診断モデルを修正すると精度が向上した。モデル修正を行うことで上皮性卵巣癌に対する精度は、感度89.5%、特異度86.7%を示した。診断モデルは質量ピーク数、クラスターの大きさ、アルゴリズムの回数で決定される。最終診断モデルの作製には、モデルの初期作製、教育、評価の3つのプロセスがあるが、日本人血清により診断モデルを教育することで精度の向上が可能であった。プロテオミクス卵巣がん血清診断は臨床応用が期待できる。
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