我々のこれまでの観察により、ヒト卵巣癌細胞の抗癌剤耐性は、transporterおよび糖鎖の長い糖脂質と2-hydroxy fatty acidを有する糖脂質の発現において、密接に関連していることが明らかとなった。これらの所見を評価するために、卵巣癌由来各種細胞株KF28(漿液性腺癌)、HMKOA(粘液性腺癌)、HTOA(漿液性腺癌)、RMG-1(明細胞腺癌)、HAC-2(明細胞腺癌)およびHNOA(類内膜腺癌)における糖転移酵素と関連遺伝子の発現を分析し、特徴付けを行なった。 その結果、GM_3、Gb_3Cer、LacCerおよびGlcCer合成遺伝子は全ての細胞で発現したが、以下の遺伝子は細胞のタイプにより特異的であった。すなわち、GD3とglycodelin(着床特異的蛋白)はHTOAで、hydroxysteroid transferaseとestrogen receptorはHKOAとHAC-2において発現した。transporter遺伝子に関しては、MDR1はHMKOAおよびHAC-2細胞で発現されたが、HTOAおよびHNOAでは検出されなかった。また、発現モードはestrogen receptorと相互に関連していたが、卵巣明細胞腺癌ならびに治療抵抗性癌で高値を示すHIF(hypoxia inclucible factor、低酸素誘導因子)とは関連が見られなかった。Fatty acid 2-hydroxylase(FA-2H)はHMKOAとRMG-1細胞で発現した。結論的には、2-hydroxy fatty acid含有糖脂質の合成に関わる遺伝子発現とtranspoter遺伝子発現との相関性は密接ではなかった。又、taxolを添加してKF28細胞を培養した際に、MDR1遺伝子が48時間以内に出現した。これは、MDR1が抗癌剤に対して直ちに対応する遺伝子であることを示唆している。
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