3次元視標提示のための装置として、一つのコンピュータにより液晶シャッターとモニターの視標の両者の制御を同期して行える装置を作成した。この装置により被験者は右眼と左眼の独立した視線の交点に一つの仮想視標を提示された場合と同様の視標追跡運動を行うものと考えた。 上記の仮定が正確か否かの検証のために健常成人3名において輻輳開散運動、滑動性眼球運動、非対称性眼球運動の3つの課題中に記録を行い解析をした。解析では、左右それぞれ、および両眼視の視線および速度の変化を経時的に示した。その結果、左右に独立して提示された視標に従って左右眼が独立して正確に視標追跡が行えることが示された。さらに、左右眼の平均と差をそれぞれ計算することにより両眼視における眼球運動の軌跡を再現することが可能となったが、その結果、仮説通り、仮想視標を追跡する奥行き方向を含む3次元視標追跡眼球運動が行われていることが示された。 さらに、この課題を発展させ、左右に独立に視標を提示したときの眼球利得と位相差の特性を輻輳開散運動、滑動性眼球運動の眼球利得と位相差の特性と比較した。解析では左右独立眼球運動の特性は輻輳開散運動の特性と統計学的有意差を認めず、滑動性眼球運動の特性とは有意差を認めた。 これらの結果は、これまで長年指示されてきた共同性眼球運動と非共同性眼球運動の信号の和により左右の独立した眼球運動が行われているというHeringの仮説を否定し、左右には独立した眼球運動機構があり、輻輳開散運動はその一部であるというあらたな眼球運動機構を示唆することとなった。
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