3次元視標提示のための装置として、コンピュータを用いて液晶シャッターとモニターの視標を同期して制御し、被験者の右眼と左眼の独立した視線の交点に一つの仮想視標を提示された場合と同様の視標追跡運動を行う方法を開発した。 この装置を利用して、まずこの装置の有用性を検証した。健常人3名において左右の眼球に独立した視標を提示した場合、被験者は交点による仮想視標の動きと予想される視標の動きを自覚した。一方、左右それぞれの眼球運動を解析すると左右それぞれの視標に同期する眼球運動をしていた。また、左右独立した眼球運動を行った場合の解析結果を輻輳開散運動、滑動性眼球運動と比較検討した結果、輻輳開散運動と同様の利得、位相差を示していた。 有用性の確認後に脊髄小脳変性症の一つであるSpinocerebellar ataxia type 6(SCA6)患者9名と年齢のマッチした健常人7名について同装置を用いて輻輳開散運動、滑動性眼球運動の特性を比較検討した。解析では輻輳開散運動、滑動性眼球運動いずれも患者の利得が著明に低下しており健常人との間に有意差を認めた。 これらの結果より共同性と非共同性眼球運動の信号の和により左右独立した眼球運動が行われるというHeringの仮説は否定され、輻輳開散運動は左右独立した眼球運動の一部であることが示唆された。また、その機構には小脳、特にSCA6患者において特異的に障害されている片葉、傍片葉、虫部の関与が示唆された。
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