中耳・耳管粘膜の分泌に関する研究は中耳炎発症機序の解明に重要である。耳管の病的状態の発来は単に耳管周囲組織の物理的ボリュームの増減だけによるのではなく耳管分泌機能の関与が推察されている。本研究では、耳管分泌を詳細に解析し、その制御機構を解明するために、ラットでの耳管組織での検討とともに、臨床での解析も行った。受動的耳管開大圧、閉鎖圧を測定することによりラット耳管機能を定量的に解析する方法を確立することができた。絶食、循環血液量低下といった刺激を加えることによりこれらの圧が変化し、これは臨床病態を反映することがわかり、今後の疾患モデルとしての有用性が示唆された。耳管腺の培養では線維芽細胞の増殖が激しいため短絡電流の測定は断念したが、サイトケラチン、ラクトフェリンなどの同定により腺細胞を確認でき、今後の培養系での細胞レベルでの耳管分泌の解析の可能性が期待された。臨床的には耳管開放症患者に生理食塩水点鼻療法を行うことにより約6割の症例でこれを制御できることが明らかとなった。中には罹病期間の長い症例も含まれており、これは耳管開放症の治療の第1選択としての治療法となりうるものである。特に耳管分泌能の低下した高齢者に有効であることから、この機序としては耳管の機械的閉塞だけでなく耳管分泌能の改善も示唆された。また、耳管開放症患者の管理として鼻すすりの禁止が重要であることを明らかとし、特に低年齢患者では鼻すすりを禁止するだけで中耳病変のリスクが減ることがわかった。
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