研究概要 |
当科では、難治性メニエール病確実例(年間10-20例)および聴神経腫瘍(年間5-10例)に対する外科的治療を施行している。本研究に関する倫理委員会への申請・受理を経て、手術症例には十分なインフォームド・コンセントを行い、内リンパ嚢上皮の採取に関して文書による同意を得た上で、手術時にそれぞれの症例で後頭蓋窩硬膜上にて内リンパ嚢を同定した後、内リンパ嚢遠位部上皮の一部(5x5mm2)を摘出して直ちに液体窒素中に保存した。 メニエール病確実例(MD群)および対照群(聴神経腫瘍症例:AN群)のヒト内リンパ嚢よりRNAを抽出し、DNAマイクロアレイ・チップ上に存在する多数の遺伝子(HG Focus Arrayでは8,793遺伝子)とのハイブリダイゼーションを行うことにより、難治性メニエール病確実例および対照群の内リンパ嚢に発現する多数の遺伝子群の遺伝子動態を網羅的に解析した。 対照群(AN群)での遺伝子発現量を基準にして、メニエール病確実例(MD群)内リンパ嚢での遺伝子発現量が、3倍もしくは1/3(0.33)倍に変化した遺伝子群を抽出した。メニエール病症例の内リンパ嚢では、聴神経腫瘍症例の内リンパ嚢における各遺伝子の発現量と比較して、その遺伝子発現量が低下する遺伝子群が多数確認された。MD1で遺伝子発現量が0.33倍以下に低下したものが1214遺伝子(16%)、MD2で遺伝子発現量が0.33倍以下に低下したものが502遺伝子(6.8%)あった。AN1と比較して、MD1とMD2の両者で遺伝子発現量が0.33倍以下に低下したのは322遺伝子であった。これらの遺伝子群における発現量の変化が、内リンパ水腫の形成に関係するものなのか、あるいは、存在する内リンパ水腫の結果であるのか、さらに解析を進めていく予定である。
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