我々は平成20年度にリン酸化Akt(pAkt)とPI3K-Akt伝達系の拮抗因子であるPTENの発現パターンを胎生期と生後のマウス内耳で明らかにした。胎生期ではPTENは感覚上皮予定領域にほぼ一致して発現が開始し、胎生後期では蝸牛上皮の中では有毛細胞に限局して陽性となるという特徴的な発現パターンが観察され、この結果を国内外の学会で発表した。この結果からPI3K-Akt伝達系はSensory precursor cellの増殖制御や未分化性の維持に関連した機能を持つ可能性が推察された。本年度はこの結果をもとにさらに発現パターン解析を詳細に行うことと、実際にPI3K-Akt伝達系の内耳発生における機能を解析するための研究実施を予定していた。発現パターンについてはこれまでの蝸牛上皮における発現のみでなく、蝸牛神経節細胞における発現も検討し、神経細胞に発現が観察されるがこれも生後14日目までにはほぼ消失し有毛細胞の場合と同様に一過性の発現であることを確認した。機能解析については、一つはpAktを強制発現可能なAkt-Merを発現するトランスジェニックマウスの胎生期蝸牛の器官培養系用いてPI3K-Akt伝達系の阻害因子、または40HTを器官培養に添加することで同伝達系をoffにした場合とonにした場合の両方の蝸牛発生における影響を検討する予定であったが、現在は器官培養系の確立のための準備実験中である。もう一つの方法としてはPTEN-floxマウスとCre-Foxglマウスを交配し内耳特異的なPTEN-CKOマウスを作製・解析することを予定していた。今年度はカナダトロント大のTak Mak教授とMTAをかわしてPTEN-floxマウスを導入し、一方Jackson Labより科研費からの支出でCre-Foxglマウスを購入した。両系統とも順調に繁殖し近くCKOマウスの解析を開始する予定である。
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