我々は平成20年度から平成21年度にかけてリン酸化Akt(pAkt)とPI3K-Akt伝達系の拮抗因子であるPTENの発現パターンを検討し、胎生期ではPTENは感覚上皮予定領域にほぼ一致して発現が開始し、胎生後期では蝸牛上皮の中では有毛細胞に限局して陽性となるという特徴的な発現パターンが観察されることを明らかにした。この結果からPI3K-Aktシグナル伝達系はSensory precursor cellの増殖制御や未分化性の維持に関連した機能を持つ可能性が推察され、平成21年度からは実際にPI3K-Akt伝達系の内耳発生における機能を解析するための研究を開始した。具体的にはPTEN-floxマウスをカナダトロント大学のTak Mak教授のラボより導入し、一方でJackson LabよりCre-Foxg1マウスを購入して繁殖させて上で交配し、内耳特異的なPTENコンディショナルノックアウト(cko)マウスの作製を開始した。このマウスではPI3K-Akt伝達系が持続的に活性化されることになるが、過去の他臓器での同様の実験の報告や、我々の検討したPTENの内耳発生での発現パターンの結果から、Sensory precursor cellの分裂がwild typeに比して長期にわたって継続することと未分化性の維持が継続することで有毛細胞の分化が遅れること等が観察されるのではないかと考えている。 平成22年度は年度半ばの7月に、研究代表者が大阪大学より順天堂大学へ異動となったため、研究の主な対象であり、また作成過程であったPTENコンディショナルノックアウト(cko)マウスを凍結受精卵として移動させた。凍結受精卵は順天堂大学動物実験施設で固体化することができ、現在繁殖、解析中である。
|