研究概要 |
1.内リンパ嚢におけるANP family受容体を有する細胞,アクアポリン産生細胞の局在を調べるために,各種抗体を用いて免疫多重染色をおこなった。動物はラットを用いた。しかし,内耳組織の脱灰過程で抗原性が失われ,アーチファクトが多く生じたため十分な結論を得ることができなかった。そこで特殊刃を持ちいて非脱灰内耳組織標本を作製し検討したが,当該年度中に安定した結果を得ることができなかった。 2.ANP familyが内外リンパ液産生・吸収へ与える影響 正円窓から内耳ヘナトリウム利尿ペプチドを投与し,蝸電図,内耳血流,脈拍の変化を測定した。ANP,CNPを投与したが,蝸電図,内耳血流,脈拍の有意の変化は得られなかった。投与方法,投与量をさらに変更して測定する必要があると考えられた。 3.手術時に採取したメニエール病内リンパ嚢からcDNAを作成した。しかし,得られたcDNA量が少なかったため,ANP family受容体の発現のみ検討可能であった。ANP familyではANP-C,ANP-B受容体の遺伝子発現を認めた。 4.メニエール病患者を中心に,バソプレッシン,ナトリウム利尿ペプチドを測定した。バソプレッシンについては有意の変化を示す症例はごく少数(10%以下)であった。ANPは内リンパ水腫と関連はなかったが,BNPは内リンパ水腫疾患で,有意に上昇を認めた。しかし,各種の臨床所見パラメータと有意の相関は認めなかった。今回の一連の研究により,ナトリウム利尿ペプチドが内耳水・電解質代謝に関与する可能性は示唆されたが,その詳細を突き止めるところへは至らなかった。
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