これまでに中耳真珠腫の病態解明を行う目的として、in vitroでの人工鼓膜の作製を試みてきた。具体的には採取した中耳粘膜をin vitroにて粘膜上皮成分とfibroblastに分離培養し、これらの培養細胞を用いて上皮層は単層上皮、粘膜下はコラーゲン内にfibroblastを加えて結合組織を作製し、上皮層及び粘膜下層の2層からなる人工中耳粘膜シートを作製した。サイトケラチンの発現パターンや電子顕微鏡下の観察では、正常中耳粘膜と同様な組織構造が観察されたが、培養により繊毛が減少することが確認された。免疫組織学的な検討ではcaspase-14、PCNAなどの発現様式は正常中耳粘膜と同様であり、上皮の分化、増殖の点で相違を認めなかった。また粘膜上皮由来であるムチン産生に関して、RT-PCRにてMUC1~4、MUC5ACの発現を確認したところ、正常中耳粘膜と人工中耳粘膜シートでは機能的な相違点は認めなかった。この人工中耳粘膜シートを用いて、次に外耳道皮膚より採取されたkeratinocyteを分離したのち培養を行い、keratinocyteとECMからなる鼓膜上皮層にあたる鼓膜上皮シートを作製した。この鼓膜上皮シートと中耳粘膜シートがECMを介し、表裏一体となるように融合させ、三次元人工鼓膜を作製した。その結果、免疫組織学的にサイトケラチンの発現パターンやcaspase-14、PCNAの発現様式からは鼓膜上皮層においても分化、増殖は正常鼓膜と同様であることが明らかとなった。現在は作製した人工鼓膜を用い、各種サイトカインやケミカルメディーターを作用させ、実験的に真珠腫の作製を行っている段階である。 現在行っている人工鼓膜を作製し真珠腫の成因を解明する方法は今まで行われてこなかったin vitroにおける真珠腫の研究に新たな局面を見いだせるものと考える。
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