一側前庭機能が急激に低下すると、激しいめまいや平衡障害が出現する(めまい急性期)。めまい急性期の治療は、心身の安静、鎮暈薬や制吐薬などの薬物による対処療法が主体となる。急性期を脱しても通常の代償過程と比較してめまいや平衡障害の程度が強い、あるいは改善が遅れている症例には前庭訓練(めまいリハビリテーション)が適応となる。前庭訓練はこれまで前庭代償を促進することを主目的に行われてきた。近年はこれに加え、自己受容器にも積極的に反復刺激を加え、前庭代償の促進のみならず、前庭系、視覚系、自己受容器などの相互作用を強化することも目的に行われるようになった。我々は自己受容器への入力を積極的に活用した前庭訓練法の開発を目的に、自己受容器の、前庭-眼反射に対する影響について検討を加えた。振子様回転刺激と体性感覚刺激を40分間同時に加えると刺激後、半規管-眼反射の利得が低下すること、20分間刺激でも同様に利得が低下することを報告した。また、前庭-眼反射のもう一つの要素である耳石-眼反射に、体性感覚刺激が及ぼす影響について検討を加えた。体性感覚刺激により耳石-眼反射の利得は増加する傾向を示した。今回用いた体性感覚刺激は、被験者の体幹(両肩)左右方向の直線加速度に相当する刺激となるので、回転刺激による半規管-眼反射に対しては、非合目的な感覚情報として脳内で処理された結果、これを抑制する方向に可塑的変化が生じたと考えられる。一方、直線加速度が適刺激である耳石-眼反射に対しては、合目的な感覚情報として脳内で処理された結果、これを促進する方向に可塑性が生じて利得が増加したと考えられる。今後、体性感覚入力を用いた前庭訓練法を考案する際には、半規管-眼反射系に障害を有す場合と、耳石-眼反射系に障害を有す場合とを区別して訓練表を考慮する必要があると考えられる。
|