研究概要 |
固形癌は非常に多様な細胞の集団であり、その形質、増殖能、分化度、悪性度は個々の癌細胞で異なっている。最近、自己複製能と分化能を有する少数のポピュレーション(癌幹細胞:Cancer stem cells)が存在し、この癌幹細胞により癌が形成・維持されているということが明らかになってきた。頭頸部扁平上皮癌における癌幹細胞の同定・分離のために我々は既に報告されているCD44分子をマーカーとしてその解析を進めてきた。頭頸部扁平上皮癌細胞株よりCD44+細胞をserum free mediumによって培養することにより増殖させ、マグネットビーズにて純化したのちに、その機能をCD44+細胞とCD44-細胞で比較検討を行った。CD44+細胞はCD44-細胞に比べ高い増殖能・浸潤能・遊走能に加え抗癌剤に対しての耐性を示した。さらにCD44+細胞は幹細胞マーカーであるNanog, Bmi-1, Notch-1, Oct-4の発現の亢進を認めた。その免疫学的機能を比較解析したところ、CD44+細胞はCD44-細胞に比べて(1)TGF-β、G-CSF、IL-8の有意な産生、(2)HLA-A2分子及びHLA class II分子の弱発現、(3)TAP2分子の発現低下、(4)T細胞増殖能の有意な抑制効果を認めた。 さらに末梢血単核球とtranswell chamber下に混合培養したところ、CD44+細胞はCD44-細胞に比べて免疫抑制細胞である制御性T細胞、myeloid-derived suppressor cellを有意に誘導することがわかった。 このような結果から、癌幹細胞は免疫監視機構からの強力なエスケープ機構を有するだけでなく、tumor microenvironmentにおいて免疫抑制ネットワークの形成に大きく関与していることが示唆された。現在、手術によって得られた臨床検体を用いて癌幹細胞と免疫担当細胞の関わりを検討している。
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