嚥下障害の病態および重症度を客観的に評価することを目的として、嚥下内視鏡検査による嚥下機能のスコア評価基準を作成した。これは、「喉頭蓋や梨状陥凹の唾液貯留」、「声門閉鎖反射・咳反射の惹起性」、「着色水嚥下時の嚥下反射惹起性」、「着色水嚥下後の咽頭クリアランス」を0~3の4段階にスコア評価するものである。この判定基準に基づいて嚥下障害患者の経口摂取能力を後方視的に評価すると、4項目のスコアの合計点が4点以下であれば経口摂取は概ね問題なく可能、5~8点であれば何らかの経口摂取制限や代替栄養法の併用が必要、9点以上であれば経口摂取は困難という基準を作成した。次にこの基準に沿って、前方視的に経口摂取の可否を判断して経過を追跡すると、概ねこの基準は妥当であったが、呼吸機能の低下や意識レベル・認知機能が低下した患者では経過が不良であり、これらの点を加味して経口摂取の可否の判断を行うことが必要と結論した。 嚥下造影検査では、録画した造影検査所見から嚥下時の喉頭挙上のタイミングや挙上距離、食道入口部の開大度を2次元運動解析ソフト(DIPP-Motion Pro 2D)を用いて定量的に計測する方法を確立した。その結果、喉頭挙上のタイミングの遅れと嚥下障害の重症度には相関が認められた。また、嚥下障害患者に薬物治療を行うと喉頭挙上遅延時間や食塊の咽頭通過時間の短縮が客観的・定量的に証明された。本ソフトによる画像解析では、多数のパラメータを短時間に同時解析することができ、今後、定量的かつ客観的な嚥下機能評価法としてさらに検討を加える予定である。 嚥下障害に対する治療ではリハビリテーションおよび外科的治療に加えて、薬物治療の有効性を検討し、カプサイシンフィルムの口腔内溶解製剤やボツリヌストキシンの輪状咽頭筋内局注療法の有用性を確認した。これらの結果より薬物治療は嚥下障害に対する新たな治療の柱になり得ると考えた。
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