研究概要 |
前年度の結果から、SeVΔMウイルスベクターのヒト網膜芽細胞腫(RB)細胞株(Y79,WERI-Rb-1)への遺伝子導入が困難であることがわかったため、網膜色素上皮細胞(RPE)に抗腫瘍効果を持つ液性因子(IFN-β)を遺伝子導入し、パラクライン作用によってRBの増殖を抑制する方法を考えた。このことを検証するため、ダブルチャンバーの下側にIFN-βを遺伝子導入したRPEを培養し、その上側のRB細胞の細胞生存率を計測した。RPEに遺伝子導入を行っていないコントロール群と比較し、IFN-βを遺伝子導入した群では、上側チャンバーのRBの細胞生存率が低下し、TUNEL陽性の死細胞数が増加した。これらの結果より、IFN-βを眼内に過剰発現することによって、RBの増殖を制御できる可能性が示唆された。 さらにin vivoでの実験を検討したが、眼内でRB細胞が増殖する動物モデルが確立できなかったために、パラクライン作用による眼内でのRB増殖制御について検証することができなかった。重症免疫不全(SCID)マウスの皮下にRB細胞を接種するモデルを用いて、SeVベクター投与群あるいは非投与群での腫瘍塊の大きさを比較したが、有意な差を認めなかった。その原因としては、in vitroの実験で示されたように、SeVベクターがRB細胞に感染しないことが大きいと考えられた。今後は、RB細胞を安定して眼内に接種・生着させる方法や、遺伝子改変などによってRBが眼内に発症するモデルなど、よりヒトの病態に類似したモデルを開発し、治療実験を進める必要があると考えられた。
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