研究概要 |
本研究は網膜色素上皮細胞におけるTGF-β2のシグナル伝達経路に関与する分子を阻害し、過剰な細胞外マトリックスの産生を抑制することで増殖性硝子体網膜症(proliferative vitreoretinopathy ; PVR)を抑制する新規治療法(分子標的治療)の開発を目指した。現在まで、我々はSmad,p38MAPK,Rho/ROCKの分子を阻害することで、TGF-β2による網膜色素上皮細胞(RPE)のコラーゲン産生を抑制できることを報告している。今回は前年度に引き続き、Protein kinase C-delta(PKC-δ)およびPhosphatidylinositol 3-kinase(PI3K)の分子がPVR治療の標的分子になるか検討した。RPEにおいてTGF-β2で誘導されるI型(COL1A1,COL1A2)およびIII型コラーゲン(COL3A1)の発現調節にPKC-δ阻害剤およびPI3K阻害剤が与える影響をプロモーター活性、mRNA発現、タンパク発現を指標に検討し、TGF-β2/Smad経路とのクロストークに関して解析した。1)PKC-δ阻害剤およびPI3K阻害剤は実験に使用する濃度においては明らかな細胞毒性は示さなかった。2)TGF-β2刺激でPKC-δおよびPI3Kが活性化され、PI3K下流のAktの活性化は24時間持続した。各々の阻害剤は濃度依存的にTGF-β2刺激によるRPEからのコラーゲン産生(COL1A1,COL1A2,COL3A1)を抑制した。3)TGF-β2で誘導されるCOL1A2のプロモーター活性を各阻害剤は抑制した。一方、COL3A1のプロモーター活性に対しては、今回も明確な結果が得られなかった。4)次にPKC-δ、PI3KとSmadとのクロストークをSmad反応性プロモーター:(CAGA)12を用いて検討したところ、PI3K阻害剤ではTGF-β2で誘導される(CAGA)12の活性が抑制されるのに対し、PKC-δ阻害剤では、全く抑制効果がみられなかった。また、PKC-δ阻害剤の効果は転写因子Sp1の強発現で回復した。以上の結果から、PKC-δ、PI3Kの活性化を阻害することで、RPEのコラーゲン産生を抑制でき、PVR治療の標的分子として有望であることが示された。PI3KはSmad依存性であるのに対し、PKC-δはSmad非依存性に働く。
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