糖尿病性細小血管障害の発症進展にPPARα(ペルオキシゾーム増殖因子活性化受容体)が関与することを実証し、そのメカニズムを解明することが研究の目的である。前年度の研究成果から、網膜周皮細胞の細胞死(アポトーシス)が糖尿病環境において誘発され、PPARα作動薬のフェノフィブラートがアポトーシスを抑制することを、Bcl2/Bax比、DNA Ladderから明らかとし、その作用はAMPKの活性化を介したものであること、更にAMPKsRNAの実験から、アディポネクチン受容体が主たるアポトーシス抑制に働く因子であり、AMPKはアディポネクチン受容体を介して作用していることが確認された。そこで、平成21年度は1型糖尿病モデルであるストレプトゾトシン糖尿病ラットを用いて4週間フェノフィブラートを経口投与した時の、網膜における血管の周皮細胞のアポトーシス、新生血管の有無を網膜消化標本・PAS染色で、網膜細胞のアディポネクチン受容体とAMPKの発現をRT-PCRで、血液サンプルからアディポネクチン濃度を検討した。その結果、周皮細胞の核が消失したghost cellやacellular capillary、新生血管が糖尿病ラットの網膜において認められ、フィブラート群ではそのような変化が認められず、また糖尿病ラットでは血中アディポネクチンが減少し、フィブラート投与群では上昇していることが明らかとなった。一方、網膜組織全体のRT-PCRでは、アディポネクチン受容体とAMPKの発現に有意差は認めなかった。PPARα作動薬のフェノフィブラートが動物実験においても網膜症の発症進展を抑制していることが明らかとなり、その効果にはアディポネクチンが関与している可能性が示唆され、2型糖尿病モデルやメタボリックシンドロームモデルラットにおける網膜症に対するフィブラートの効果が期待される成果であった。
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