我々は、non-tissue culture dish、つまり通常は付着培養を行うためにもちいられない浮遊培養用の培養皿を用いて単一細胞化した角膜輪部上皮細胞を培養すると非常に増殖能のよい細胞だけが付着することを見いだした。また同じ方法で角膜中央部の増殖能の弱い細胞を培養しても全く細胞は培養皿に付着しなかった。そこでこの新しいヒト角膜輪部幹細胞分離法により細胞が濃縮されるメカニズムに着目した。この幹細胞分離法の特徴として、我々は、「ヒト角膜輪部幹細胞は、特異的な細胞外基質を産生する」との仮説を立てた。何故ならヒト角膜輪部幹細胞の接着能が、分化した角膜上皮細胞と決定的に異なることを利用した分離法であるからである。 この分離法の原因蛋白の候補としてラミニン5に注目した。それは角膜上皮基底層に多く発現し、また高い接着能を示す角膜輪部上皮幹細胞の特徴とよく一致するからである。実際にラミニン5は上皮細胞基底部にその蛋白が発現していた。また抗ラミニン5抗体を予め反応した後に、この新しいヒト角膜輪部幹細胞分離法を試みたところ、増殖能のたかい細胞は採取されず、コントロール抗体を反応させた群では通常通り幹細胞様細胞が分離された。 このことはラミニン5がヒト角膜輪部幹細胞分離法の鍵になっている可能性を示しており、ラミニン5を用いたprospective isolationを試みる価値があると考えられた。そこで抗ラミニン5抗体を用いたFACS解析を行う予定である。
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