研究概要 |
目的:単純ヘルペスウイルス(HSV)の角膜上皮への感染は、上皮型ヘルペスの発症を引き起こすが、その後さらに、実質型角膜炎のトリガーとなる。本年は、角膜上皮をターゲットに定めて、ヒト角膜上皮のHSV感染に対する分子応答と、感染制御や角膜炎症における役割を包括的にとらえるためにマイクロアレイを用いた検索をおこなった。方法:不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE)にHSV1型KOS株を感染させ、経時的にRNAを採取した。対象には、非感染細胞及びUV不活化HSV感染HCEを用いた。採取したRNAを用いて、Agilent社のGeneSpring GX7.3.1を用いて包括的トランスクリプトーム解析を行った。結果:分散分析において有意な変動(P<0.05)を示し、かつ2倍以上発現が変動あるいは減少を示した遺伝子は、412個であった。次にこれらの遺伝子群を用いてKyoto Encyclopedia of Genes and Genomesを用いてシグナル伝達経路との関連を検討した。多くの遺伝子が関連づけられた経路として、MAP kinase,細胞接着、サイトカインシグナル、細胞周期、renal cell carcinoma,VEGFシグナルがあげられた。またUV不活化HSV感染では、大きな遺伝子変動は認められなかった。更にlngenuity pathway analysisを用いて解析すると、シグナル伝達の中心となっているのはIL-6とVEGFであると考えられた。結論:角膜上皮へのHSV感染は、MAP kinase経路を中心とした多様なシグナル経路を活性化させており、IL-6とVEGFがその中心となっていた。角膜ヘルペスの実質型で問題となる新生血管産生に関与するVEGFが、上皮への感染ですでに重要な因子として産生されていることは特に注目に値する結果である。
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