マウス角膜上皮細胞の培養が困難であるという障害のため、本分野においてはほとんどこの種の試みはなかった。そこで、H20年度においては正常マウス角膜上皮細胞培養の確立をおこなった。我々は、培養条件を改良することにより、マウス角膜上皮細胞を10継代以上安定して培養することに成功した。培養したマウス角膜上皮細胞には、安定して未分化マーカーであるDNp63mRNAの発現が認められており、継代を経た後も細胞の形態に変化は認められなかった。本方法で3継代培養時には初期培養の約60倍の細胞数を獲得することが可能であり、また凍結保存することによる細胞形態、増殖能の変化も認められなかった。これらの結果は3系代目のマウス角膜上皮細胞が以後の実験に十分使用可能であるという重要な基礎研究である。 さらに我々は、本方法においてマウス角膜上皮細胞がその特徴を維持していることの確認をおこなった。マウス角膜上皮細胞をディシュ上で単層培養したのみでは、角膜上皮細胞特異的マーカーであるケラチン12(K12)の発現は認められないが、3継代目のマウス角膜上皮細胞を重層化させて培養したところ前層にわたって、K12の発現が確認された。この結果は、本方法による培養により角膜上皮細胞の特徴が維持されていることを意味しており、我々の目的とする試験管内での皮膚未分化細胞の角膜上皮細胞への形質転換において必要不可欠な実験環境が整ったといえる。
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