研究概要 |
申請者らは網膜神経節細胞死に小胞体ストレス負荷を介した機序が関与しているという仮説に基づき研究を進め、網膜障害時に小胞体ストレスを介した細胞死が惹起されることを初めて明らかにした。そこで、培養網膜神経細胞を用いたスクリーニングにより、小胞体ストレス細胞死を抑制するいくつかの化合物を見出した。なかでもSUN N8075[(2S)-1-(4-amino- 2, 3, 5- trimethylphenoxy)- 3- (4- [4- (4- fluorobenzyl) phenyl]- 1- piperazinyl)-2 - propanol dimethanesulfonate]は小胞体ストレス細胞死を最も著明に抑制した。さらに、SUN N8075の保護作用機序をDNAマイクロアレイにより解析し、候補遺伝子として神経分泌タンパク質であるVGF nerve growth factor inducible(VGF)を見出した。さらに、その発現増加はリアルタイムRT-PCR解析においても確認された。VGFはエネルギーバランスの維持および海馬シナプスの可塑性への関与が報告されている神経分泌タンパク質で、神経栄養因子であるNerve growth factor(NGF)およびBrain-derived neurotrophic factor(BDNF)により誘導されることが知られている。一方、SUN N8075はNGFおよびBDNFの発現には明らかな作用を示さなかった。そこで、SUN N8075の保護作用がVGFを介しているか否かをVGF siRNAによりVGFの発現を抑制することに検討したところ、SUN N8075の小胞体ストレス細胞死保護作用が完全に消失した。さらに、VGFを細胞内に導入することにより小胞体ストレス細胞死を抑制できることを確認した。これらの結果から、SUN N8075の小胞体ストレス細胞死抑制作用はVGFの発現を介していることが明らかになった。今後、網膜疾患におけるVGFの関与を明らかにすることにより、病態解明ならびに新たな治療薬の開発に繋がることが期待される。
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