社会の高齢化に伴って患者数の増加が問題となっている角膜混濁に対する再生医学的治療法の確立を目的として、植物由来の多糖類アルジネートを用いた角膜内皮、および角膜実質の再生に関する研究を行った。本年度は、アルジネートを用いて凍結保存した後に、厚さ約150μmに薄切したヒト角膜実質フィルムを作成し、ウサギおよびカニクイザル培養角膜内皮シートを作成した。得られたシートを用いた免疫染色により、本シートには細胞密度およそ1500から2000個/mm^2の角膜内皮細胞が生着しており、角膜内皮の機能に関連する蛋白(ZO-1、Na^+-K^+ATPase)を発現していた。次にヒト角膜実質フィルムを基質とした培養角膜内皮シートを用いてウサギ眼への移植を行い、動物眼への移植が可能であることを示した。また本年度は、アルジネートビーズを用いることにより、角膜実質由来細胞を良好な形態を保って増殖させ、さらには細胞外基質を産生させることを試みた。アルジネートを用いて動物角膜実質由来細胞を培養し、アルジネートの角膜細胞増殖および細胞分化における効果を評価した。アルジネートを用いて動物の角膜実質由来細胞を培養し、培養液へのウシ胎児血清の添加の有無およびインキュベータ内の酸素濃度が培養角膜実質細胞に与える影響を検討したところ、無血清培地でアルジネートを用いて培養した角膜実質細胞においては、低酸素条件にすることで細胞増殖が促進される傾向が示された。一方で、アルジネートを用いることによる細胞外基質の産生促進は確認できず、培養方法のさらなる改良が必要である。
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