本研究の目的は、「ES細胞から誘導した神経堤細胞を用いて、その分化機構を解明し、再生医療によって神経堤症治療をめざす」ことである。この目的により、我々は神経堤細胞に発現する転写因子Sox10を蛍光タンパク質で標識した遺伝子改変マウスES細胞を作成し、試験管内での神経堤細胞の誘導、およびセルソーターを用いた神経堤細胞の純化に成功した。また、このES細胞から遺伝子改変マウスを作成し、生体内での神経堤細胞の可視化にも成功した。平成21年度においては、神経堤細胞を可視化したマウスを利用して、胎仔皮膚に神経堤様の細胞が維持されていることを見いだし、その多分化能を明らかにした。皮膚という利用しやすい組織に存在する神経堤様細胞は再生医療への応用の可能性を秘めていると思われる。さらに本年度には他の組織においても神経堤様の細胞が維持されていることを見いだした。現在その幹細胞性、多分化能を解析している。本年度は同マウスを用いて、発生時の神経堤細胞をセルソーターを用いて分離し、神経堤細胞に発現する遺伝子の網羅的な解析も行った。この解析によって、神経堤細胞特異的に発現する遺伝子群(転写因子、成長因子、レセプター型分子など)を明らかにした。神経堤細胞関連遺伝子の全貌を明らかにできたことは今後の神経堤細胞研究の新たな展開につながると思われる。引き続き、これら遺伝子の神経堤細胞の発生との関連性を中心とした機能解析を行う。また本年度には、ヒトES細胞の色素細胞への分化誘導系を検討し、その詳細な解析を行った結果、ヒトES細胞由来の神経堤細胞が発生している可能性を見いだした。次年度においても、さらに解析を行っていく。
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