本研究の目的は、「ES細胞から誘導した神経堤細胞を用いて、その分化機構を解明し、再生医療によって神経堤症治療をめざす」ことである。この目的により、我々は神経堤細胞に発現する転写因子Sox10を蛍光タンパク質で標識した遺伝子改変マウスES細胞を作成し、試験管内での神経堤細胞の誘導、およびセルソーターを用いた神経堤細胞の純化に成功した。さらに、このES細胞から遺伝子改変マウスを作成し、生体内での神経堤細胞の可視化にも成功した。このマウスにより、神経堤細胞の生体内での挙動を解析できるようになり、さらには生体から単離する事も可能となり、神経堤細胞そのものの詳細な解析ができるようになった。平成22年度においては、神経堤細胞を可視化したマウスを利用して、生体内の各組織に多分化能を持つ神経堤細胞が維持されていることを明らかにした。本来、神経堤細胞は発生後に多分化能を失ってしまうと考えられてきたが、発生後でしかも各組織に移動した後でさえ、多分化能を維持しているということは、驚くべきことであった。さらにその多分化能の維持機構の解明がなされれば、今後の幹細胞研究や再生医療研究の大きな発展につながると思われる。本年度には、同遺伝子改変ES細胞の神経堤細胞への分化誘導系及び同遺伝子改変マウス胚を用いて、発生時の神経堤細胞をセルソーターで分離し、発現する遺伝子の網羅的解析を行った。この解析より、神経堤細胞特異的に発現する遺伝子群(転写因子、成長因子、レセプター型分子など)を明らかにし、さらにこれら遺伝子群から、神経堤細胞の発生と関連ある遺伝子を見出した。本研究は未だ発展段階であるが、神経堤細胞関連遺伝子の全貌が明らかにでき、神経堤細胞発生に関与する可能性のある遺伝子を同定できたことは、今後の神経堤細胞研究の新たな展開につながると思われる。
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