研究概要 |
羊胎児を用いた尿路閉塞実験において、妊娠早期の尿路閉塞が腎の嚢胞形成に関与し、また尿路閉塞により膀胱機能が障害されることが我々の過去13年間の胎生60日の尿路閉塞モデルで明らかになった。そこで、過去に作成した羊胎仔尿路閉塞モデルの腎臓・膀胱の組織を、後方視的に見直し、尿路閉塞が起こってからどの位の時期に膀胱や腎臓の不可逆的変化が起こるかを調べた。約1cm大の腎臓を摘出し、正中で二つに分けて切片を作成し、近位尿細管に認められる急性尿細管壊死(ATN : acute tubular necrosis)の所見に注目した。この所見は尿路閉塞後、2日から7日までに認められ、14日には消失していた。ATNの変化は胎児手術の血流障害か、あるいは嚢胞形成による二次的変化かを調べる目的にシャムモデルを作成し、尿細管の変化を追跡した。その結果、シャム手術をおこなったモデルにもATNの変化が認められ、また、子宮壁を損傷したモデルにもATNの変化を認めた。これらの結果からはATNは尿路閉塞にかかわらず、胎児の手術や胎児の胎内環境の血流障害を鋭敏に反映している所見の可能性が明らかとなり、その後正常尿細管構造を示す、可逆的変化であることがわかった。また、膀胱壁の変化を尿路閉塞後早期に調べると、その壁は尿路閉塞後3日までは組織の引き延ばされた変化が認められ、一時的に壁は菲薄化してくる。その後7-14日での変化は、ストレッチされた筋繊維の断裂が、組織の修復される過程で筋繊維芽細胞の出現を認め壁の肥厚が起こっていた。これらの所見から、尿路閉塞後7日以内の膀胱-腹腔内シャント術をおこなう必要があると思われた。この結果を得るための胎児手術や、解剖時の腎臓摘出、膀胱の壁の摘出に肉眼的には十分な視野が得られず、2,5倍のルーペを用いた。また、手術に際しては十分な光量が必要となり、ルーペとヘッドライトはセットで頭に装着し適切な組織を取り出すのに大変有用であり、作業効率が向上した。
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