本年は21匹の母羊の手術をおこなったが双胎は約半数に認められ36匹の胎仔手術が施行された。過去13年間おこなっているように尿膜管と雄では尿道、雌では膀胱頸部を結紮し、尿路閉塞モデルを作成し早期の腎・膀胱の変化をみた。尿路閉塞後48時間で胎児のみを取り出し安楽死させた尿路閉塞モデルを9匹、3日のモデルを5匹、5日のモデルを6匹、7日のモデルを5匹作成した。残りは満期145日まで飼育し分娩させた。この中で4匹は子官内発育不全を認め検討から除外し、3匹が術後死亡した(生存率92%)。病理学的な検討結果から過去3年間の研究で認められた早期の急性尿細管壊死(ATN : acute tubular necrosis)は胎児治療をおこなうと尿路閉塞後3日で7割に認められ、14日で改善した。胎児手術は侵襲が強く周術期の腎臓に変化を及ぼしやすく、ATNは近位尿細管に認めたが可逆性変化であった。尿路閉塞後7日で近位尿細管の拡張と間質の増生が顕著となり、この間質の繊維化が多嚢腎(MCDK)に関与していると考えた。また、膀胱壁は尿路閉塞後5日までは伸展され、その後徐々に繊維性に肥厚し、満期までに正常の膀胱壁の7倍の厚さになることが明らかになった。上記変化から胎児治療の時期は生後2週間程度と考えられたが当初予定している腎嚢胞形成にかかわる遺伝子のregulationの変化をとらえる事ができなかった。尿路閉塞モデルの数をふやし、ウエスタンプロットをおこなう必要があると考えた。
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