平成20年度においては、機能性消化管障害で惹起される中心静脈栄養(TPN)関連肝機能障害の肝細胞周期への影響に注目し、またかかる肝細胞周期の変化に伴う細胞増殖調節因子の発現の変化に注目し研究を行った。 体重200g前後のWister系雄性ラットを用い、以下の4群に分類した。Contro1群:標準ラット飼料自由摂取および中心静脈ルートより生理食塩水を投与した群、FGID群:腸管大量切除後に標準ラット飼料自由摂取および中心静脈ルートより生理食塩水を投与した群、TPN群:中心静脈ルートより標準高カロリー輸液を投与した群、TPN+FGID群:腸管大量切除後に中心静脈ルートより標準高カロリー輸液を投与した群。 結果、中心静脈栄養により惹起された肝障害は、腸管機能障害モデルで有意に発現することが示唆された。かかるモデルの障害肝では有意にapoptosisの増加を認めた。そこで肝細胞周期制御にかかわる因子を検索すると、チェックポイント制御関連遺伝子の発現に変化を認めた。また、同モデルにおいては細胞増殖調整因子(PPARs)の発現も変化し、そのアゴニストの投与(チアゾリジン誘導体)を行うと、その肝障害が改善する可能性が示唆された。腸管機能不全の患者が中心静脈栄養から離脱するための究極の治療である小腸移植患者の生存率はいまだに低い。今年度の研究結果により、かかる患者の生命の維持において必須のものである長期中心静脈栄養の合併症としての肝機能障害を、分子生物学的にコントロールできる可能性がある。
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