成熟雄SDラットの背側皮膚に皮膚生検用のパンチを用いて開放創を作成し、ただちに緑膿菌PAO1株を接種し、閉鎖環境においた(接種群)。緑膿菌を接種せずに閉鎖環境においた創(非接種群)を対照とした。創作成後、経時的に組織を摘出し、再上皮化率、表皮細胞の分裂、血管新生、好中球集積、サイトカインの発現について解析した結果、創部への緑膿菌接種により、創作成後24時間をピークとして創部に好中球が集積し、創作成3日目の上皮化、表皮細胞の分裂、血管新生の促進がみられた。また、緑膿菌接種により、創作成24時間以内に創部ホモジネート中のTNF-αがmRNAおよび蛋白レベルで検出され、創部に遊走した好中球内TNF-αの検出が高まっていた。さらに、シクロボスファミドやラット好中球に対する抗体RP3を前投与して、好中球減少状態を作り緑膿菌汚染創の治癒過程における好中球の役割について解析した結果、好中球減少状態のラットでは、対照のラットと比べ、緑膿菌による治癒促進とTNF-α産生活性化の阻害がみられ、さらにこれらの現象はTNF-αを局所投与することにより回復した。加えて、TNF-α中和抗体投与により、緑膿菌による治癒促進と創部への好中球集積活性化の阻害がみられたことから、好中球が産生するTNF-αが治癒促進に積極的に関与することが明らかとなった。 緑膿菌による治癒促進に関与する物質として、クオラムセンシング機構により合成される情報伝達物質N-3-Oxodecanoyl-homoserine lactone (3O-C_<12>-HSL)に注目した。緑膿菌PAO1株に代わり3O-C_<12>-HSL接種によっても同様に上皮化の促進がみられ、この現象はTNF-α中和抗体投与により阻害されたことから、3O-C_<12>-HSLがTNF-α産生を介して治癒促進に関与している可能性が示された。
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