申請者らが見出した新規の蘇生後脳症病態予後予測マーカーは、本来の分子機能や生理的役割が未解明であるため、病態の分子機序との関連や治療ターゲットとしての可能性は依然として不明である。本研究課題では、構造・機能解析を通じて新規マーカータンパク質の機能的意義を明らかにする。平成22年度は新規マーカータンパク質の機能解析を目的として、培養細胞系を用いた侵襲条件下での動態と翻訳後修飾付加反応、さらに蘇生後脳症以外の炎症性疾患における血中動態について解析した。293細胞で一過性に発現させたタグ付きタンパク質は無血清培養時、血清存在下と同等のタンパク質発現を示した。細胞抽出試料のウエスタンブロット解析において、細胞内の発現タンパク質の大部分は未修飾の分子量を示した。一方、エクソソームを介した発現タンパク質の培地中への放出は無血清培養時に顕著であり、そのほとんどは修飾付加型分子として検出された。精製したタグ付きタンパク質を293細胞の培養系へ添加した場合、血清存在下、あるいは無血清培養時、いずれの条件下でも細胞抽出試料中に修飾付加型分子が検出された。しかしながら、修飾付加型分子の割合は、圧倒的に無血清培養時で高く、侵襲条件下の細胞では、生理的なレベルを大きく超える新規マーカータンパク質の放出と翻訳後修飾付加が起こると考えられた。このような侵襲応答性の修飾付加型分子を、敗血症患者血清において測定したところ、患者群の修飾タンパク質濃度はコントロール群と比較して有意に高く、また重症度と正の相関を示した。以上の結果から、蘇生後脳症患者脳脊髄液より見出した新規マーカータンパク質は、様々な組織損傷において細胞から放出され、翻訳後修飾の付加を受けるとともに、細胞膜成分と相互作用することで病態の分子機序に直接関与する可能性が示唆された。
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