研究概要 |
【背景】心肺停止蘇生後や新生児仮死の症例に対し脳低温療法の有効性が臨床的に証明されてきた。脳虚血における脳低温療法の治療効果の作用機序の一つに炎症反応を変化させることが知られている。内皮細胞の低温による炎症の抑制は、炎症性サイトカインのtranscriptionの部分で抑制を受けていることが報告されている。しかし、内皮細胞のmRNAのstabilityの低温に対する影響に関しての報告は少ない。本研究では、Actinomycin Dを用いてLPS刺激後の内皮細胞の低温培養下のmRNA stabilityを検討し、低温によるサイトカイン産生抑制の機序がmRNA stabilityによるものかを検討した。【方法】Human umbilical vein endothelial cell(HUVEC)でサイトカイン(IL-6、IL-8)のmRNA発現に合わせてlipopolysaccharide(LPS)(1μ/mL)刺激下に常温群(37℃)と低温群(30℃)に分けて、24時間培養した。その後、LPSを除いた培養液に変えてActinomycin Dを10μg/mlとなるように加え2時間後、4時間後、6時間培養を行った。細胞中のmRNAの発現をTaqMan法によるreal-time Rt-PCR (TaqMan Universal PCR Master mix, TAKAR A RNA PCR kit ver.3.0, TaqMan Gene Expression Assays, IL-6, IL-8)で測定した。【結果】IL-6ではm-RNAの安定性に低温群と常温群で有意差はみられなかった。IL-8では、m-RNAは低温群で有意に上昇していた。低温でmRNAの安定性はIL-6では変化を認めないが、IL-8において安定性が増加することが示唆された。【考察】今回の検討によるとIL-8のmRNAは低温により安定性が増加することが示された。臨床的には低体温中から復温したとき、安定したIL-8 mRNAがあるため血清中のIL-8の血中濃度が急激に上昇する可能性が示唆された。このため、低体温からの復温により脳内の炎症が急激に増悪する可能性があり、低体温からの復温には十分注意が必要と考えられた。
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