研究概要 |
本年度は昨年度に続き腎癌の上皮-間葉転換(上皮-間葉移行に代わりこの用語がepithelial mesenchymal transitionの訳語として多くなったので、記載を変更する)とともに口腔扁平上皮癌の上皮-間葉転換についても解析をおこなった。 1腎癌について 我々は腎癌の型別で特に明細胞癌型に関して転移能が高いことに注目していて、昨年度はRANKLの関与について解析・発表をおこなってきた(文献)。本年度は細胞内特に転写調節に関わる因子に焦点をあてて、解析をおこなった。その結果snailと呼ばれる小型Zn finger型転写因子の発現が統計的に明細胞癌で高いことがわかり、培養細胞でその分子機能について探索をおこなった。明細胞型腎癌細胞株でsnailの発現が有意に高いものを選び、その細胞株に対してsnail siRNAを遺伝子導入で試みた。その結果発現が下降した細胞で移動能を調べたところ、vivo, vitro両方とも移動能が低下していた。細胞因子について調べてみるとMMP9の発現が有意に低下していた。一般にsnailの機能として細胞間接着因子のカドヘリン低下を促すことが知られている。MMPの機能は多様であるが、上皮細胞に関しては基底膜構造の破壊と細胞外基質に捕捉されていた各種増殖因子の放出が知られている。今回の結果はsnailが上皮-間葉転換で広範な影響を及ぼすことを示している。この結果は現在投稿準備中である。 2口腔扁平上皮癌について 扁平上皮癌についてはさまざまな因子が上皮-間葉転換に関係していると推測されるが、我々はNotchシグナルに注目している。我々は現在口腔扁平上皮癌の症例についてNotch発現を調べているが、癌化した上皮ではNotch1発現が全層性に低下することがわかってきた。またこのNotch発現低下と呼応してケラチン発現に大規模な変化が起こることがわかった。特にkeratin14,17などの発現が上昇することがわかってきた。ケラチンは細胞分化マーカーとしての取り扱いが多いが、デスモソームとの構造関連で細胞接着性にも重要な関連があることが知られている。サイトケラチンに関してはデスモソーム中の接着因子デスモグレインとの結合を妨げることでdominant negativeの効果を狙い、この部分を欠失したkeratin14遺伝子を口腔癌細胞に遺伝子導入している。予備的な結果ではこれらの遺伝子導入細胞株は形態に変化を起こしているので、その変化についても検討している。
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