本年度はSaccharomyces cerevisiaeをモデル微生物として用いた昨年の研究をさらに継続するとともに、CDTの核内作用をin vivoモデルで再現する検討を行った。ラットを用いて、上顎臼歯部口蓋側歯肉溝に精製CDTを100ng/μlx2x6回、滴下して投与し、1日後、2日後、3日後の組織を採取し、ヘマトキシリン・エオジン染色ならびにproliferating cell nuclear antigen (PCNA)免疫染色を行った。コントロールとして生理食塩水を滴下した。コントロール群では、歯肉溝上皮に形態的変化は認められなかったのに対し、CDT処理群では3日後に明瞭な上皮の剥脱、細胞の膨化、変性が認められた。また血管拡張とともに好中球の浸潤が認められた。CDTはCDTBが毒素活性を担い、そのDNase活性に必須のアミノ酸残基が明らかにされている。CDTBの274番目のHisをAlaに置換した変異CDTを作製し、野生型CDTと比較した。その結果、野生型で確認された細胞の剥脱、膨化、変性は変異CDT投与群では認められなかったが、血管拡張や好中球の浸潤像は認められた。従って、CDTの歯肉溝上皮細胞への作用はCDT特異的と考えられた。次にPCNA染色を見るとCDT投与により、歯肉溝上皮細胞、歯肉上皮細胞の一部で明らかなPCNAの染色低下が認められた。このことからCDT投与により歯肉溝周辺の上皮細胞の増殖が抑制されたことが明らかになり、CDTはin vivoにおいても細胞周期を停止させる活性を有することが明らかとなった。
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