研究概要 |
口腔扁平上皮癌における上皮間葉移行(EMT)の関与を解明するため, EMTの主要な因子であるTGF-β, Snail, E-カドヘリン,ビメンチンについて免疫組織化学的検索を行ない,臨床病理学的因子との相関性について検討し,さらに頭頸部扁平上皮癌由来細胞株を用いて関連因子の遺伝子発現について検索した.免疫組織化学的検索の結果, TGF-Pに対する反応は57例中44例(77.2%)に認められ,その局在は腫瘍細胞の細胞質にみられた, Snailに対する反応は36例(63.2%)にみられ,その局在は腫瘍細胞の細胞質に認められた. E-カドヘリンに対する反応は腫瘍細胞の細胞膜に認められたが、発現減弱は37例(64.9%)でみられ,残りの20例(35.1%)では消失を認めた.ビメンチンに対する反応は9例(15.8%)のみでみられ,その局在は腫瘍浸潤部における腫瘍細胞の細胞質や細胞膜に認められた.ビメンチン陽性症例では,ビメンチンの発現部位に相当してE-カドヘリンの発現減弱あるいは消失を認めた. Real time RT-PCR法でCa9-22はTGF-βの添加によりビメンチンmRNA発現の著しい増加をみた.一方, E-カドヘリンおよびSnail mRNAの発現に変化はなかった.KBではTGF-βの添加によって, E-カドヘリンmRNA発現の著しい発現抑制が認められた.しかし,ビメンチンおよびSnail mRNAの発現に変化はなかった. HSC-3では, Snail mRNAのわずかな増加傾向がみられたが,ビメンチンおよびE-カドヘリンの発現に変化はなかった.以上のことから口腔扁平上皮癌ではTGF-β誘導によるEMTが不完全ながらも生じており, E-カドヘリンの発現減弱にはSnail以外の転写抑制因子が関与し, Snailの発現や活性は様々なシグナル伝達経路によって制御されていることが示唆された.
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