研究概要 |
本研究は,硬組織形成に関わる組織幹細胞を維持する微小環境を解明することで,顎顔面の再生医療への応用を探求することを目的とした.平成20年度はラット歯根膜組織における組織幹細胞の存在とその特徴,そして,その細胞が持つ特異因子を検索した.幹細胞には,組織幹細胞が豊富に存在すると考えられているSide Population (SP)細胞を対象とした, Fluorescence activated cell sorting (FACS)システムにより単離したSP細胞とnon-SP (NSP)細胞の性状を分析した.歯根膜細胞には,約2%のSP細胞が存在しており,その増殖能は, NSP細胞よりも低いことが示された.また,培養実験において, SP細胞はNSP細胞よりも高い骨芽細胞分化能および石灰化能を有することが示された.さらに,ハイドロキシアパタイトの多孔性スキャホールドを用いた移植実験においても, SP細胞を用いた系で硬組織形成が認められた.その硬組織は, bone sialoprotein, osteocalcin, osteopontin-positiveであったことから,骨様硬組織であることが示された.さらに, SP細胞とNSP細胞をマイクロアレイに供し, SP細胞特異因子および分化誘導因子を網羅的に解析した結果,トランスポーターであるMDR-1の他,いくつかの因子がSP細胞に強い発現が認められた.この所見は,骨形成能で示されたようにSP細胞がNSP細胞と異なる性質を持った細胞集団であることを裏付けた.また,この実験により検索されたSP細胞特異因子が組織幹細胞を維持する微小環境を調整する可能性が考えられる. 以上より,歯根膜細胞に存在するSP細胞が,骨組織形成において高い能力を有しており,効率的な硬組織再生に利用できる可能性が示唆された.
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