研究概要 |
歯根膜は、歯根と歯槽骨という2つの硬組織間に位置し、解剖学上靱帯に分類される線維性結合組織であり、歯の歯槽骨内への保持と咬合力、生理的な歯の移動、矯正的歯の移動などから生じる様々なメカニカルストレスを受けながらも周囲の基質を石灰化することなく、歯周組織の維持、再生に重要な役割を果たしている。また、歯根膜には咬合圧を知覚する神経組織や、歯根膜組織自体を維持するための栄養血管組織が存在し、これらの組織が協調的に働いて歯根膜の機能を維持している。 最近我々は、歯根膜由来線維芽細胞様細胞が間葉系幹細胞マーカーに加え、血管内皮細胞マーカーを発現すること(1bi et al., 2007 ; Shirai et al.,2009)を明らかにして報告した。さらに我々は、ラット歯根膜由来線維芽細胞様細胞がコラーゲンゲル中で血管様構造物を構築しうることを発見し報告した(Okubo et al., 2010)。 今回、我々は、間葉系幹細胞マーカー陽性で血管内皮細胞や平滑筋細胞に分化することができる歯根膜由来線維芽細胞様細胞SCDC2と、その分化能力の無いSCDC1との間の遺伝子発現の違いをDNAマイクロアレイを用いて網羅的に比較検討した。興味深いことに、複数の転写因子の発現が、SCDC1に比べてSCDC2において亢進していることが判明した。これらの転写因子の中には、ES細胞や成体幹細胞の分化能力に影響を与えるという報告のあるものが複数存在しており、現在、その分化に与える影響力について強発現ベクターやsiRNAを用いて確認をしているところである。加えて、この細胞の分化能力発現には、FGF, PI3K, TGF-βの細胞内シグナル伝達経路が重要な役割を担うことが判明した。 以上のように、本研究プロジェクトにより、歯根膜中の間葉系幹細胞の増殖・分化を制御する転写因子ならびに細胞内シグナルの主要な部分が解明された。
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