研究概要 |
平成20年度は,動物実験およびヒトを被験者とする実験を行った.動物実験においては,急性実験を行い,1)下歯槽神経ならびに舌神経への電気刺激によって引き起こされた顎反射(開口反射)が,嚥下誘発のための上喉頭神経刺激によりいかなる変調をもたらされるか,2)上記三叉神経領域への刺激が嚥下反射惹起にいかなる変調をもたらすか,について検索した.その結果,顎反射の変調については,下歯槽神経刺激誘発性の開口反射と舌神経刺激誘発性の開口反射では大きく異なり,嚥下惹起に伴う前者の抑制が非侵害刺激,侵害刺激いずれにおいてもわずかであったのに対して,後者においては,非侵害刺激に伴う開口反射の抑制は顕著であった.一方,上喉頭神経刺激に伴う嚥下反射惹起は,その潜時と回数に関する限り,三叉神経領域への刺激による変調を受けないことが示唆された. ヒト被験者を用いた実験では,嚥下機能の客観的評価に用いるためのパラメータとして舌筋筋電図に注目し,食品の物性に伴う同筋の活動の変化を評価することにより,その後の記録に有用であることを確認した.これらの記録がエックス線透視検査との同時記録によるものであったことより,動画像と生体信号を記録したことで生体機能と食塊の移送の同時評価が可能になったことを示している.次に,これまで動物実験でのみ示されてきた中咽頭,下咽頭,食道入口部への電気刺激による嚥下反射誘発が咽頭粘膜への機械的・電気的刺激によっても可能であることが示された.刺激強さを上げることで,痛覚閾値に達する前に嚥下反射惹起を可能としたのに対して,刺激時のタスクに咀嚼動作を加えたところ,反射の抑制は顕著であった.咀嚼中枢がいかなる働きをもって嚥下を抑制するかについては議論の余地を残した.
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