味蕾は、口腔内の部位によって支配神経と細胞分化パターンが異なっている。また、神経支配を失うと約10日で消失し、神経の再生によって再び形成される。本実験では、茸状乳頭の味蕾を支配する鼓索神経と軟口蓋の味蕾を支配する大錐体神経のつなぎ替え手術を行った。神経手術により消失した味蕾が本来とは異なる神経支配の下で再生する過程で、味蕾のII型細胞のマーカー分子の部位特異的な発現パターンを解析することにより、味蕾の細胞分化が、味蕾が形成される部位に依存して手術前と同じパターンになるか、それとも、再生を誘導する神経に依存して変化するかを検討した。術後1ヵ月および2ヵ月の時点で再生した味蕾が、味蕾が形成される部位に依存して手術前と同じパターンになるか、それとも、再生を誘導する神経に依存して変化するかを検討した。術後1ヵ月および2ヵ月の時点で再生した味蕾を解析したところ、味蕾を構成する細胞数はいずれの時点でも手術前の約半分になっていたが、味蕾細胞の様々なマーカー分子の発現は手術前と同様に明瞭に検出された。免疫染色を行ってII型細胞におけるIP3R3とgustducinの発現を解析したところ、これらの分子の発現パターンは再生を誘導する神経に依存して変化しないことを示唆する結果が得られた。また、Gタンパク質Gα14が味蕾では、口腔内の部位に特異的に発現することを明らかにした。Gα14は、有郭乳頭の味蕾では甘味・うま味受容体であるT1r3を発現する細胞に特異的に発現しているのに対し、茸状乳頭や軟口蓋では発現は検出されなかった。
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