研究課題
基盤研究(C)
転写因子NF-κBは免疫応答や炎症反応における炎症性サイトカイン、接着分子や抗細胞死分子などの様々な生命現象に関わる遺伝子の発現を調節する。NF-κBは無刺激状態では抑制分子IκBとの複合体として細胞質中に留まっている。しかし、炎症性サイトカインなどの刺激を受けると、IκBキナーゼによってIκBがリン酸化され、さらに分解される結果、NF-κBが遊離され、核へ移行し、標的遺伝子のプロモーターに結合することで、標的遺伝子の発現を調節する。しかしながら、幾つかの研究グループからIκBのリン酸化と分解の他にNF-κBの主要なサブユニットであるp65のリン酸化がNF-κB依存性の遺伝子の転写活性を調節することが報告されている。幾つかのキナーゼによるp65のリン酸化部位が複数同定されている。これらのリン酸化部位はNF-κBの転写活性を調節するが、各リン酸化部位の役割についてはよくわかっていない。複数のリン酸化部位のうち、276番目および536番目(マウスでは534番目)のセリン残基のリン酸化が重要であるという報告が蓄積している。我々は276番目および534番目のセリン残基の生理学的および炎症反応における役割を解明するために276番目および534番目のセリン残基をアラニンに置換したノックインマウス(S276AおよびS534Aマウス)を作製した。これまでの細胞を用いた実験結果よりS276AマウスはNF-κBの転写活性が著しく低下することから、p65欠損マウス同様に胎生致死になることが予想されたが、胎生期の様々な時期に致死となり、その表現型も多様であった。この多様な表現型は276番目のセリン残基をアラニンに置換することで転写抑制因子であるヒストン脱アセチル化酵素が引き寄せられ、NF-κB結合部位近辺の遺伝子の発現を負に制御するエピジェネティックな作用であると考えられた。またS534Aマウスは野生型マウスと同様に成長するが、野生型マウスと比較して体重増加と皮下脂肪の増加が認められた。さらに276番目のセリン残基のリン酸化を模倣する目的で276番目のセリン残基をアスパラギン酸に置換したS276Dノックインマウスを作製した。S276Dマウスは生後すぐに成長障害がおこり、全身で炎症症状が現れ、生後8~20日で死亡した。そこでI型TNF受容体欠損マウスと交配すると全身性の炎症症状は改善されたが、「ドライアイ」などの局所的な炎症症状は改善されなかった。これらの結果より、S276Dマウスは全身性および局所性炎症疾患におけるNF-κBの役割を明らかにできるモデルであると考えられた。
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