研究課題
咀嚼運動は、食物を噛み砕くだけでなく、舌や頬で食物を上下臼歯間に保持し、噛み砕いた食物が口腔外に漏出しないように口唇が閉鎖されるなど、さまざまな筋がそれぞれ正確なタイミングで動く、高度に協調した運動である。咀嚼のパターンジェネレーターは、顎口腔領域の感覚情報をもとに下顎、口唇、頬、舌の協調運動パターンを形成していると考えられるが、その詳細はほとんど明らかでない。そこで、本研究は、まず開口筋・閉口筋と表情筋との協調機構に着目し、ラットの脳幹スライス標本に膜電位感受性色素を用いた光学的電位測定法を適用し、電気刺激によって開口筋・閉口筋の運動ニューロンが存在する三叉神経運動核と表情筋の運動ニューロンが存在する顔面神経核に同時に興奮性の光学的応答を誘発する部位の検索を行った。さらに、開口筋あるいは閉口筋運動ニューロンと顔面神経運動ニューロンの同時パッチクランプ記録を行い、電気刺激あるいはレーザー光によるcagedグルタミン酸の解離による光刺激に対する応答を解析し、同定された部位のプレモーターニューロンからの開口筋・閉口筋運動ニューロンと表情筋運動ニューロンに対する出力様式を検討した。その結果、三叉神経運動核および顔面神経核を含む脳幹スライス標本上で、電気刺激により三叉神経運動核および顔面神経核の両方に光学的応答を誘発する領域が確認された。さらにレーザー光刺激を用いて細かく解析すると、刺激する部位により運動核に誘発される応答様式が異なった。従って、閉口筋運動ニューロンに対するプレモーターニューロンと表情筋運動ニューロンに出力を送るプレモーターニューロン群が三叉神経運動核と顔面神経核の間の網様体に存在するが、存在部位は重ならない可能性が高いことが明らかとなった。下顎運動と頬、口唇などの表情筋運動の協調運動制御は、プレモーターニューロンより上位で行われる可能性が考えられる。
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