研究概要 |
生体内の各種器官の位置は体の前後軸に沿ったパターン形成によって制御される。このようなパターン形成は、必然的に体における「右」と「左」が決定されることでもある。この左右非対称性(Left-Right Asymmetry)は、各臓器器官の原器における細胞内Caイオン信号の違いによって生じることが近年着目されている。歯牙においては、左右側で対称な形態を有する。しかしながら歯牙における前後軸を、近遠心を結ぶ頬舌的中心線とすれば、歯牙は厳密に近心・遠心・頬側・舌側という非対称性を有する。すなわち、歯牙は近遠心軸を前後軸とした非対称性によって形成される。そこで、本研究では、歯牙の前後軸としての近遠心軸に対する頬舌側非対称性の決定因子を明らかとするために、各発生段階の歯胚を構成する細胞群の細胞内外Caイオン局在の非対称性分布の存在を検討した.胎生マウスから蕾状期、帽状期、鐘状期の各発生段階における歯胚を取り出し,初代器官培養を行った.これら歯胚を測定用チャンバーの底部に近・遠心・頬・舌側が明確となるように固定し、細胞内Ca^<2+>指示薬(OregonGreen488 BAPTA-1/AM)を負荷し、共焦点レーザー顕微鏡を用いた蛍光強度で細胞内遊離Ca^<2+>濃度を記録した。細胞内Ca^<2+>の空間的分布は,各ステージ歯胚において近心側に集積し,上皮成長因子の刺激によって,その細胞内Ca^<2+>濃度は一過性に増加した.従って,歯胚発生過程においてtransient receptor potential(TRP) channels P2(TRPP2)を介した細胞内Ca^<2+>の空間的集積が歯胚細胞に生じることによって歯牙近心側が決定するであろうことが示唆された。
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