研究概要 |
新奇の味に対する恐怖や味覚嫌悪学習といった行動に深く関わる味覚は,視覚や聴覚など他の感覚にはない極めて特異的な性質を備えていると考えられる。味覚情報は,大脳皮質の一次味覚野と考えられている島皮質に集約されており,この島皮質を破壊することによって味覚特有の行動が失われることが知られている。したがって,味覚が有する特異性のメカニズムを解明するためには,島皮質における情報処理機構を明らかにすることが極めて重要である。しかし,島皮質の神経回路ならびにその機能的特性は未だほとんど解明されていない。そこで,ホールセル・パッチクランプ法ならびに免疫組織化学的手法を用いることによって,(1)島皮質がどのような神経回路によって構築されているのか明らかにするとともに,(2)その機能的な特徴を解明することによって,味覚情報処理機構の特殊性を浮き彫りにすることを目的として実験を行った。 島皮質に存在する錐体細胞からホールセル記録を行い,記録細胞の近傍をタングステン電極で刺激し,EPSCを測定した。その結果,グルタミン酸のシナプス前膜からの放出確率は,ノルアドレナリン受容体の活性化によって変化することが明らかとなった(Kobayashi et al., 2009)。また,抑制性ニューロンと錐体細胞を同時記録してunitary IPSCを計測したところ,抑制性シナプス後電流の伝達効率は,生後2週齢付近で放出確率がほぼ成熟するのに対して,放出部位の数は生後4-5週齢においても増加し続けることが明らかとなった(Kobayashi et al., 2009)。
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