研究概要 |
骨は増殖因子に富む肥沃な環境であり,一般的に癌細胞が定着し増殖するために都合の良い組織と考えられている。近年,骨浸潤,骨転移における骨破壊は癌細胞により直接引き起こされるのではなく,破骨細胞を介して起こる破骨細胞性骨吸収が重要な役割を演じていることが明らかとなっている。放射線生物学や環境変異原の研究はマウスなどの小型ほ乳動物とともにメダカ(Oryzias)などの小型魚類を利用した研究が盛んになってきている。骨代謝の研究分野では,メダカの咽頭歯骨周辺,neural archの内側等で破骨細胞が存在することから,本研究では,メダカを使用して破骨細胞性骨吸収後に引き続いて起こる癌の骨への浸潤増殖のメカニズムを解明し,放射線照射後に発症する骨吸収等の骨代謝障害予防法の開発を行うことを目的とした。 メダカに対する各種放射線(ガンマ線,重粒子線)の照射を行い,照射後の咽頭歯骨部における破骨細胞を電子顕微鏡による咽頭歯骨部の観察によって放射線照射による形態的変化を観察し,免疫染色によって骨代謝因子の分布を観察したところガンマ線と炭素線では異なった分布が見られた。平行して行っているマウス等の骨細胞による実験において転移巣での癌の増殖や骨破壊の制御を行っているとされてきたPTHrPの発現とこれによって誘導される破骨細胞誘導因子の発現も炭素線照射で抑制されことが明らかになり,重粒子線局所照射の安全性を評価することでがん治療への応用が期待できるのみならず,骨粗鬆症や宇宙飛行士の骨量減少の防止にも応用が期待できる。
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