口腔扁平上皮癌細胞株MOK205の細胞集塊(MCA)をlaminin 5またはI型collagenをコートしたプレート上に移すと速やかにmonolayer colonyに変化し、さらにlaminin 5上では著しい細胞分散を生じた。この現象はlaminin 5によるインテグリン刺激を介してMOK205の運動能亢進と同時にEカドヘリンによる細胞間接着が解除されるためである。この実験モデルにScr familyの特異的チロシンキナーゼ拮抗剤(PP1)を添加すると、この細胞分散現象は完全に抑制されたことから、インテグリンとカドヘリンの相互作用にSrcが関与することがわかった。さらに蛍光抗体法によりlaminin 5上でのMCAの細胞分散過程におけるチロシンリン酸化Src(Tyr215、Tyr529、Tyr418のリン酸化Src)の局在を検索したところ、Tyr215リン酸化SrcとTyr529リン酸化Srcは細胞分散前に主に核内に局在したが、分散開始時には細胞間接着に局在が変化した。このことからSrcのTyr215とTyr529のリン酸化が細胞分散の惹起に関与することが示唆された。これらの結果からSrcを標的とした浸潤・転移抑制療法の可能性が示された。
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