本研究では、急性冠症候群発症における歯周病起炎菌の役割を明らかにすることで、急性冠症候群初発・再発予防における歯周病疾患治療の重要性を明らかにする。 本研究では、具体的には急性冠症候群の患者の冠動脈から直接に冠動脈血、プラーク、末梢血の検体を採取する。歯周病の代表的起炎菌であるP.Gingivalis等が冠動脈プラーク内に存在するか否かを培養法およびPCR法を用いて検討する。さらに炎症性サイトカイン、血管増殖因子、MMP等の各因子を測定解析し、冠動脈プラークへの歯周病起炎菌感染およびそれに引き続く炎症が急性冠症候群の発症に関与するメカニズムについて検討する。さらに、上記を検討した患者において歯科医師との協力のもとに歯周病のスコアリングの算定および、対照群を設定した歯周疾患の治療介入を行い急性冠症候群の発症に及ぼす効果について、前向きに追跡調査を行う。急性冠症候群の患者で経皮的冠動脈形成術を行なった、連続174例で、冠動脈から採取した吸引物においてPCR法で38%の症例でP.GingivalisのDNAが陽性であった。いくつかの検体は電顕にて観察したが、P.Gingivalisの菌は確認できなかった。しかしながら、P.Gingivalisが分泌する蛋白分解酵素であるGingipainが吸引物から検出され、数件の検体からは正常値の数十倍の数値で検出された。本研究は、歯周疾患起炎菌が急性冠症候群発症に関与するか否かを直接検討する初めての研究で、同等の報告はこれまでになく、極めて独創的である。本研究により、冠動脈プラークへの歯周病起炎菌の直接感染が急性冠症候群発症の一因になっていること、および治療介入により心血管イベントの発症が抑制されることが推測される。これらが明らかになり、本研究で歯周病起炎菌感染が急性冠症候群の発症に寄与するという概念を支持する重要な証拠が得られれば、心血管イベント予防のための全く新しい臨床的アプローチが得られる可能性がある。
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