研究概要 |
根尖性歯周炎によって生じる骨吸収は,インターロイキン1(IL-1)などが破骨細胞に作用して進行する。吸収窩表層の骨芽細胞は,増殖・定着した後,骨細胞へと分化し,次第に骨産生性が亢進するようになる。また細胞膜上の接着分子インテグリンは,細胞外基質と相互に作用した後,シグナルを細胞内に伝える機能を有する。一方,根尖性歯周炎の治癒過程に必須である骨添加機序において,骨芽細胞と細胞外基質との接着,相互作用が重要な役割を果たすものと予測されるが,詳細な機序は不明である。 我々はラット根管治療モデルを用いて根尖性歯周炎の治癒期においてIL-1aの発現が亢進することを報告した(J.Endod., 2007)。そこで本研究では,根尖性歯周炎の治癒メカニズムの一端を解明することを目的に,骨芽細胞を標的細胞としIL-1aの骨芽細胞に対する生物学的作用を調べた。 得られた結果は,以下のとおりである。 骨芽細胞様細胞MC3T3-E1において, 1.IL-1aは,細胞増殖活性を濃度依存的に亢進した(0-10ng/ml)。 2.低濃度(0.1ng/ml)のIL-1aは,インテグリンa3の発現(mRNAおよびタンパク質レベル)を亢進した。 3.低濃度(0.1ng/ml)のIL-1aは,ラミニンに対する細胞接着性を亢進した。 4.IL-1aの前処理した際,ラミニン刺激によって細胞内シグナル伝達系の一つであるMAPK系のリン酸化を亢進した。 根尖性歯周炎の治癒メカニズムを解明するために,根尖性歯周炎の治癒期を想定してIL-1aが骨芽細胞の細胞動態に与える影響を調べた結果,IL-1aは低濃度になると,マウス骨芽細胞様細胞MC3T3-E1のインテグリンa3発現を有意に亢進し,ラミニン基質との細胞接着性を増強する作用を有することが明らかになった。この新規所見は,IL-1aは骨吸収性サイトカインとして作用する一方,炎症消退に伴う組織中濃度の低下によって骨再生にも関与し得る可能性を示唆するものである。 次年度は,IL-1aによるラミニン基質との細胞接着性の亢進の後,骨芽細胞の骨分化誘導能の変化を検討する予定である。
|